大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉家庭裁判所 平成元年(家)1044号 審判

主文

本件申立てを却下する。

理由

1  申立ての要旨

申立人は、「長男が家をつがない為、私が家に入る為どっちの氏をとるかの選択の時、市役所の方ももとにもどすのが難しい事を告げられなかった為いつでもかえられると思っていました法にうとかった為に大変なしっぱいをしてしまったと思っています。離婚時は長年つとめた会社なので氏がかわるとやはりまわりからのかぜあたりを考えてしまい、今は会社もかわり旧氏でやり一日も早く、もとの籍に戻したいです。」と申立書に記載して、申立人の氏「吉田」を「高野」と変更することを許可する旨の審判を求めた。

2  当裁判所の判断

(1)  本件記録中の戸籍謄本、住民票の写し、回答書及び申立人の審問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

〈1〉  申立人は、昭和39年5月18日に山根孝、文子夫婦の長女として出生した。同夫婦は、その間に、昭和44年10月6日、長男の直樹を儲けたが、昭和51年5月7日に離婚し、その際、子らの親権者を母と定めた。

〈2〉  申立人と直樹について、昭和52年12月16日、民法791条に基づき、「山根」から母の氏である「高野」を称することとする民法791条に基づく届出がされた。

〈3〉  申立人は、昭和61年6月21日に吉田忠道と婚姻したが、平成元年1月9日、協議離婚し、同日戸籍法77条の2の届出をした。

〈4〉  申立人は、現在、千葉市○町の県営住宅に一人で住み、不動産業を営む会社に勤務している。

〈5〉  申立人の母の高野文子は、申立人の実家である千葉県印旛郡○○町の家で申立人の弟の直樹と2人で生活している。

〈6〉  申立人は、審問の中で、本件申立てに及んだ事情について、

ア 申立人は、実家を継ぎたいと考えているが、現在の氏「吉田」では都合が悪い。

実家には弟がいるが、同人は平成2年に就職先の寮に入ることになっており、母とは余り折合いが良くないので、将来弟が実家に戻ることはほとんどないのではないかと思われる。

イ 離婚の際、「吉田」の氏を称することとしたのは、当時勤務していた会社で周囲の者から騒がれるのが嫌で、離婚したことを知られないようにしたかったからである。

ウ 申立人は、氏の変更は簡単にできると考えていたため、平成元年9月に、氏の「高野」と表示して現在の勤務先へ就職した。

そのため、現在の勤務先へ以前の勤務先の関係者や知人から「吉田」宛に電話がかかってきて混乱するなど困っている。

現在の勤務先ではごく僅かな者に対してしか戸籍上の氏は「吉田」であるという話をしていない。

エ 申立人が離婚したということは古くからの知人にも話していないが、氏を「高野」に変更できれば、話せるようになると思う。

旨説明した。

(2)  上記認定の事実関係の下では、仮に申立人主張のような事情があるとしても、申立人が氏の変更が必要であるとして挙げている諸点を以て戸籍法107条にいう「やむを得ない事由」に当たると認めることは困難といわざるを得ない。

(3)  よって、本件申立ては理由がないから却下することとし、主文のとおり審判する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例